|
その日、カカシはぼんやりと忍犬たちのシャンプーをしていた。 「はぁ、」 忍犬たちは心底不安げだった。こんなご主人、そうそう見たことない。と、いうかキモイ。 “ 夕方に受け付けまで来るように ” 途端、カカシはがっくりと項垂れた。 「やっぱり行かなきゃなんないのかあ。」 カカシはますますもってどんよりと顔を曇らせた。伴って忍犬たちもどんよりとしてしまう。今日のシャンプーはもう通夜だと思うしかない。 夕方に近い時間になってカカシは受付へと向かった。イルカはまだ任務から帰ってきてはいないようだ、待つことにしよう。受付のソファに座ってカカシはポーチの中からイチャイチャパラダイスを取りだした。カカシはまだ17才なので18禁の場面は未だに読めない。でももうなんとなく想像で解ってしまうので意味があるようでないような気がする。 「カカシっ!!」 イルカの気配が近づいてくるなあとは思っていたけど、こうも大声で呼ばなくてもいいだろうに、とカカシは顔を上げた。 「任務終わったの?」 「ああ、終わった。ってお前なに読んでんだ?」 「イルカも読んでみる?」 カカシは持っていた本をイルカに見せた。 「なんで所々にモザイクがかかってんだ?変な本だな。」 「文句は三代目に言ってよ。18禁の場面は18歳になるまで読めない術ってのをかけたの三代目だから。」 聞いてイルカは吹き出してカカシに本を突き返した。 「なっ、こ、これそんな本だったのかよっ。ってかそんな本こんな所で読むなよっ!」 「え〜、別にいいじゃない。誰に見せるでもないし。」 まあ、そりゃそうかもしれないけど、公衆が〜、くの一が〜、とイルカはぶつぶつ言っている。硬いなあ、イルカは。 「っと、そんなこと言ってる場合じゃなかったんだった。カカシ、行くぞっ。」 イルカは歩き出した。カカシはため息を吐くと本をポーチにしまって立ち上がった。 「今日の夕食、わかってるよね?」 「へいへい、わかってるっての。」 イルカは苦笑いしている。だってそれ位のご褒美がなけりゃやってられないでしょ? 「女体変化した方がいい?」 「やめとけ、これ以上嘘の上塗りしたって仕方ないって。」 それもそうだ。別に嘘をついていたわけではなかったけど、それでも嘘をついて事をこれ以上重い方向へと持って行かれたのではかなわない。 そして上忍待機室前、イルカとカカシは互いに顔を見せて切なげな笑みを浮かべて戸をノックした。 「失礼します、ガイ上忍は...。」 「イルカ、待っていたぞっ!!」 上忍室に入って待ち受けていたのは、ガイの不思議な程に本人にとって決まったポーズだった。片手を腰に当て、もう片手を頭上に伸ばし、人差し指を天井に向けている。足は片足を膝で少し折り、つま先立ちにしている。 「俺はそのポーズはどうだかな、とは助言したんだぞ。」 聞こえてきたその声にカカシとイルカははっと視線を向けた。そこにはアスマが苦笑いして立っていた。 「ちょっと、なんでここにアスマがいるんだよ。」 カカシが吼える。 「それはこっちの台詞だぜ、なんでカカシがいんだよ、イルカ、かわいこちゃんと待ち合わせなんじゃなかったのか?」 「だから、俺はそんなこと一言だって言ってませんよ。勝手に自分の中で想像しないで下さいよ。俺はガイ上忍に式を送ってきた人を紹介してほしいと言われて、それで、」 イルカはカカシに目配せする。カカシは心なしか青ざめていた。だがここで逃げても仕方のないことだ。アスマがいたことは予想外だったがこうなりゃギャラリーがいようがいるまいが関係ない。真実を付き渡さねばなるまい。 「それでイルカっ、その式のお方はどちらにいらっしゃるんだっ!?」 ガイが目を輝かせてイルカを見ていた。じっと見ている、イルカはなんだか居たたまれなくなってきた。 「あの、その人はですね、」 「俺だよ。」 カカシが一歩ガイに進み寄った。 「お前は?」 「はたけカカシだ。」 「ほう、あの天才と謳われたカカシとなっ!!活躍は色々と聞いている。だが何故お前が?」 ガイは不思議そうだ。その純真そうな目がカカシを苦しませる。 「式を放ったのは、俺だ。」 「なにをばかなっ!あんな繊細で美しい式が男の手から作り上げられるはずがっ、」 だがガイの言葉は途中で消えてしまった。カカシが式の印を組み始めたからだ。素早く印を結ぶその動きはさすが暗部のことだけはある。イルカは式が発動する瞬間は見たことがなかったので、初めて見るその清廉された動きに目を奪われている。 「...納得、した?」 はっと、我に返ったガイは腰に手を当ててカカシを指さした。おいおい、人を指さしたらだめでしょーが?とカカシは思ったが口に出す前にガイは熱烈に言ってきた。 「カカシっ、今日からお前は我がライバルだっ!!」 ...え? 「あの、さ。元々女とか思いこんだのは、」 「うむ、俺の勘違いだったようだ。だがあれほどまで素晴らしい術をその若さで会得、そして使いこなせているとは、天晴れだ!我がライバルとして相応しいっ!!」 キラーンと親指突き立てて笑ったガイの歯が白く光った。 「年も同い年なことだし、いいライバルが見つかって嬉しいぞっ!!」 ガイはそう言ってははははは、と快活に笑った。 「カカシ、奴の気持ちも汲んでやれ。ライバルを名乗るくらい、許してやれよ。」 よくは解らなかったがまあ、確かにライバルを名乗られたかとと言ってどうなるわけでもなし、それにこれはもう何かを言っても無駄なような気がしてきたカカシは、あっさりと言った。 「まあ、ほどほどに...。」 「うむっ!ではいずれの日にか勝負しようっ!!」 「えっ、里内での私闘は御法度ですよ?」 イルカが慌てて言うが、ガイは心配はないぞ、とイルカに向き直る。 「イルカよ、勝負は私闘ではないぞっ!?正々堂々相手と己を高めあい、さらなる向上を図るための方法に過ぎん。」 そう言われてしまえば何も反論することはできない。 「我がライバル、カカシよ!!次に会う時を楽しみにしているぞ!!」 そう言ってガイは上忍待機室を去っていった。残された3人はぽかーんとしていたが、やがて正気に返ると、誰ともなく帰宅を促してそれぞれ帰ることにした。 「ガイ、きっとあれが初恋だったんだろうなあ。今までずっと修行して修行して、やっとこさ上忍になったばかりで、心の余裕ができはじめた頃だったからなあ。」 帰り道、アスマが言うとイルカはずーんと暗くなった。別に騙していたわけではなかったが、なんとなく切ない。 「まあ、がんばれよ、ガイのライバル君。」 アスマはそう言ってカカシの頭にぽん、と手を置いて自宅の方向へと去っていった。 |